少女漫画みたいな恋がしたい 後編
週末自宅でゆっくり過ごしていると、とケータイの着信音が鳴った。
松野くんからのメールだ。
『5巻まで読んだ! 続き楽しみにしてる! あとこれ俺んちの猫』
もう5巻まで読んだんだ、あっ猫ちゃんかわいい……。
私は早速返事を送る。
『読むの早いよ笑 月曜日また持って行くね! 猫ちゃんかわいい!! 名前なんていうの?』
返事をして3分もしない内に返信が来る。
『漫画は面白いと手が止まんなくなんだよ笑 猫の名前はペケJ、かっこいいだろ!』
ペケJ……?かわいいけどなんか由来でもあるのかな? また学校で聞こうかな?
それから松野くんとはメールがしばらく続いた、松野くんの好きな漫画がNANAってまだ読んだことないけど結構大人っぽい漫画って聞いたことがある。
そんな事をメールでやり取りしていると。
『おもしれーから今度持って来てやるよ!』
やった! 気になってたから楽しみだなあ。
こんなに週末明けるのが待ち遠しいなんて初めてかもしれない。
***
「!これ持ってきた漫画」
「わーありがとう!」
メールのやり取りから一週間、私たちは毎日のように漫画を貸し借りするようになった。今日は私が松野くんに貸す番だけど、彼が直接クラスに来てくれた。
「私がそっち行くつもりだったのに、そんなに漫画読むの楽しみだったの?」
笑いながら松野くんに話しかけると。
「俺は、お前に早く会いたかっただけだ」
松野くんがぽそりとそんなことを言った、聞き間違えかと思って彼を見ると、顔が真っ赤になっていた。
「え……?」
「……わりぃ変なこと言った、忘れてくれ! じゃあまたな!」
松野くんは慌てて教室から出て行った。一瞬思考が停止してしまった。
だって、まさかそんなこと言われるなんて思ってなくて……。
「期待しちゃうじゃん……」
私は頬を染めながら、小さくつぶやく。
松野くんの存在が大きくなっていってしまう。
***
「最近楽しそう〜、なんかいいことあったのぉ?」
「え、そうかなぁ……」
「まぁ言わなくてもわかるけどねぇ〜、わかりやすいから」
友達がにやにやしながら肘でつついてくる。
そりゃあ、男子と縁遠かった私が最近松野くんみたいな男の子と仲良くなったり……”お前に早く会いたかっただけだ”なんてなんて言われたり……そんなの浮足立っちゃうよ。
でもそんな浮足立ってしまうようなふわふわした日々は続かなかった……。
移動教室で廊下を歩いてると、松野くんの後ろ姿が見えた。
話しかけようか迷っていると、松野くんが一人の女の子を発見して話しかけていた。
「おい、お前さー、昨日のメールなんで返信してこねーんだよ」
「ごめんて、ってか……――」
「はあ、せっかく漫画貸したっつーのに……」
会話が全部聞こえるわけではないけれど、なんだか松野くん、私と話しているより砕けていて、女の子と親しげに会話していた。
「なんだ、そうだよね、私だけじゃないのは当たり前だよね……」
漫画の貸し借りしてるのは私だけじゃなかったんだとか、松野くんに近い女の子は私以外にもいるんだって、 そう思うと胸の奥にチクリとした痛みを感じた。自惚れ過ぎていたのかも……。
「私、バカみたい……」
こんな気持ちになるなら気付かなければ良かった。
***
朝、下駄箱で靴を履き替えていると肩をトントンと叩かれる。
「よっ、」
松野くんが私に声をかけてきた。
「お、おはよう……」
いつも通り挨拶をする。ただそれだけなのに、どこかぎこちなく感じてしまう。
「元気ねーな? どうした?」
私の顔を覗き込むように見つめる松野くん。それだけで勝手に私の心臓は高鳴ってしまう。
「そ、そうかな? いつも通りだよ?」
「そっか、なら良いんだけど、なんかあったら言えよ」
松野くんは優しく微笑んでくれる、その優しさが今はちょっと辛い。
「ありがとう……あっ早く教室いかなくちゃ、またね」
まだ時間的に余裕はあるのに、私は無理やり話を切り上げ松野くんから逃げるように教室に向かった。
***
昼休み友達と中庭の庭木を囲んでいるレンガをベンチ代わりにして昼食を取る。
「が中庭で昼食取りたいなんて珍しいよねー」
「えっとー、まあ今日は天気良いし……」
「いや、めちゃくちゃ曇ってるんだけど」
「えーっと……」
教室にいたらいつもお昼休みに松野くんが漫画の貸し借りに来てくれる、だから私は逃げるように中庭に来ていた。
いつもなら来てくれたら凄く嬉しいのに。そんな事を考えていたら友達が呆れたような声で話し出した。
「ねえ、もしかしてだけどさ、松野くんのこと避けてる?」
「……え?」
「やっぱり、……好き避けってやつ?」
「す、好き避け!? ってあれだよね? 好きだから恥ずかしくて避けちゃうって奴だよね? そんなんじゃないって!」
「じゃあなんで避けてるの? 最近一緒にいないし、前までは結構二人で喋ってたのに……」
「好き避けじゃないの……なんていうか勝手に嫉妬とか、してる自分が嫌っていうか……」
「それ、好き避けだね」
「うぅ……」
友達の言う通りこれは"好き避け"なのかもしれない。
「まあ、そんなことして良い事なんてないから」
ばっさりと言われてしまった。
「……うん、わかってる」
「もう! まだ始まってもないんだから、最近できたクレープ屋にでも誘いなよ」
「えー、いきなり誘うのはハードル高いよ〜」
「いけるって! ほら、クーポン券あげるから」
半ば、無理やりクーポン券を握らされてしまった。
「ありがとう、じゃあ、頑張ってみるね……」
午後の授業が始まる前に教室に帰る。
私は授業中ずっと、どうやって誘おうか考えていた。
『放課後空いてる?クレープ食べに行かない?』
いや、もっとこう自然に……っていうか甘いものとか食べるかなあ?
そんなことを考えていると授業は終わり、後は長めのHRがあるだけになった。
「よし……」
私は松野くんのところへクーポン券を握りしめ教室を出ようとしたその時。
「それ、最近できたクレープ屋じゃね?」
茂部くんが話しかけてきた……正直タイミング悪い。
「そうだけど……」
「俺甘いもの好きだからちょうどいいわ、一緒に行ってやるよ」
茂部くんが突拍子もない事を言ってくる。
「え、やだ」
私はつい反射的に断ってしまった。
「……は?」
「いや、やだっていうか……他の人と行こうと思って」
上手い断り方が出来ずに思わずやだ、なんて冷たい言いかたをしてしまった。
教室の前でそんなやり取りをしていたら向こうから松野くんがやってきた。
「あれ? ……と、茂部じゃん、なんかあったのか?」
「あっ松野くん……」
私、松野くんとクレープ屋行きたくて、誘いたくて、でも茂部くんが話しかけてきてまた、上手く断れなくて……なんて今は言えない。
松野くんが
「ああー、、顔色悪いんじゃね?保健室行った方がいいぜ」
と言ってくれた。
「えっ、あ、うん……」
「ほら、いこーぜ」
松野くんが私の腕を引っぱって連れて行こうとしてくれたが。
「はあ!? もしかして松野のことが好きなのかよ」
「えっ!?」
いきなりとんでもない爆弾を落とされた。何で茂部くんがそんなこと言ってくるの!?
「こんな不良やめとけよ! 暴走族に入ってるってうわさもあるし、ロクな奴じゃねーよ」
「てめえ……」
茂部くんが松野くんを煽るように話したせいで松野くんの表情はどんどん変わっていく。私なんかのせいでケンカなんかしたら、松野くんが大変なことに……わたしがなんとかしなくちゃ。
「勝手な事言わないで……私が松野くん好きなのに茂部くんは関係ないでしょ!!」
いつもわたしは声が小さい方なのになぜかこの時は大きな声が出た。
茂部くんが呆然とした顔で
「は、公開告白かよ、まじか……」
と言っている。
周りにいた生徒たちもザワザワと騒いでいる、しまった……と思った時には遅かった。
「……え、あっ松野くん、その、ちがくて……」
どうしよう、恥ずかしさとフラれる恐ろしさが急に込み上げてくる。逃げ出してしまいたい。
「、ちょっと来い」
松野くんが私の手を引っ張り教室を出る、ざわつく生徒たちをかき分けるように廊下を進んでいく。
しばらく歩くと、人気のない階段の踊り場で松野くんは立ち止まった。
「松野くん、ご、ごめんなさ……」
「なんで謝んだよ」
松野くんが振り向き、私を見据えように見つめる。
「だっていきなりあんな告白しちゃって、あんなことするつもりじゃ……」
「……違うのかよ? 俺は嬉しかったけど」
「えっ……」
松野くんの顔を見ると頬が少し赤くなっていた。
「うそ、松野くん、他の女の子といる方が楽しそうだったし……」
ああ、この期に及んで私は可愛くない言葉を言ってしまう。松野くんは首をかしげながら答えてくれた。
「ん? あぁ、あれか、あいつは場地さんの彼女、俺があいつに恋愛のアドバイスしてたっつーか……まぁ、それだけだから、勘違いさせて悪かったな」
場地さん、たしかいつも松野くんがいつも一緒にいる友達だ、なんだ……良かった。
「そっか……良かった……あれ?」
あれ、安心したら涙が出てきた。
「ちょ、泣くなって!」
慌てる松野くんを見てさらに溢れてしまう。
「私、松野くんが……私以外の女の子と話しているの見てるだけで、こんなに嫉妬しちゃうとか……別に付き合ってもないのに……」
少女漫画が好きなくせに、恋がこんなに自分を見失いそうなほど苦しいものなんだと初めて知った。
「あーもう!」
松野くんが両手を広げ私を抱きしめた、突然の事で頭が真っ白になる。
「俺ものこと好きだから!」
「松野くん……」
「の嫉妬とか可愛すぎんだろ!! 俺は好きな女にはめちゃくちゃ優しくするって決めてんだよ!!」
「……私でいいの?」
「お前がいいんだよ……俺はお前を初めて見たときからずっと気になってた」
松野くんがきゅうっと私を抱きしめる力が強くなる。
「、俺と付き合ってくれ」
耳元で松野くんが少し震えた声で告白してくれた。
好きな人からこんなに思われてるだなんて、そんなの嬉しすぎる。
「はい……よろしくお願いします」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
クレープ屋に誘うのはまた今度になりそう。